青和特許法律事務所

裁判管轄

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2011/10月

〔概要〕
 管轄の基本的事項及び具体的事例における知的財産権侵害訴訟の管轄 

<目次>
1.事物管轄と土地管轄
2.普通裁判籍と特別裁判籍
3.商標権侵害の事例
4.ライセンス契約書における専属的合意管轄の規定の意義 

〔詳細内容〕

1.事物管轄と土地管轄
 管轄は、種々の観点から分類されますが、実務上は特に、事物管轄と土地管轄を区別しておく必要があります。事物管轄は、第1審を簡易裁判所とするか地方裁判所とするか(裁判所法33条。訴額140万円以下は簡易裁判所。)を決するもので、土地管轄は、地方裁判所のうち、例えば、東京地方裁判所に訴えるべきか、大阪地方裁判所に訴えるべきかを決するものです。知的財産権侵害訴訟の場合、訴額が140万円以下ということはあまりなく、事物管轄が地方裁判所になることを前提に、どの地方裁判所に管轄が生じるかを確認すべき場合が多いといえます。 

2.普通裁判籍と特別裁判籍
 土地管轄は、普通裁判籍(民訴法4条)と特別裁判籍(民訴法5ないし7条)に区別することができます。普通裁判籍は、事件の内容に関係なく一般的に認められる裁判籍で、特別裁判籍は、事件の内容を考慮して限定された範囲の事件について認められる裁判籍です。 

3.商標権侵害の事例
 以下では、商標権侵害の事例を題材に、土地管轄を具体的に確認してみます。

[事例]

X社(本社:仙台市)は、Y社(本社:千葉市)がX社保有の登録商標(○○号)を無断で使用した製品を千葉市で製造・販売していたことから、Y社に対し商標権侵害に基づき同製品の製造・販売の差止め及び1000万円の損害賠償を求めて訴えを提起しようとしている。

(1) 本事例の訴訟物は、商標権侵害に基づく差止請求権と商標権侵害に基づく損害賠償請求権なので、まず請求権毎に確認します。 

(a) 差止請求権について
 普通裁判籍は、被告の主たる事務所の所在地(民訴法4条1項、4項)に生じるので、Y社の本社のある千葉地方裁判所となります。
 特別裁判籍の義務履行地(民訴法5条1号)については、差止請求権の場合、不作為の場所ないし被告の住所又は本店所在地になると考えられるので、千葉地方裁判所となります。特別裁判籍の不法行為地(同条9号)については、侵害品の製造・販売地が千葉市なので、千葉地方裁判所と考えることもできます。なお、差止請求権の場合に、不法行為地による管轄規定の適用があるか否かは、見解が分かれていますが、最判平成16年4月8日民集58巻4号825頁は、不正競争防止法の事案で肯定しました。特別裁判籍は、上述したものに限られませんが、民訴法5条1号、同9号は、知的財産権侵害訴訟で比較的利用されることの多い規定といえます。
 さらに、民訴法6条の2第1号により、東京地方裁判所にも管轄があります。
 よって、本事例の差止請求権については、千葉地方裁判所と東京地方裁判所に管轄が生じると考えることができます。 

(b) 損害賠償請求権について
 普通裁判籍は、前記(a)と同じく千葉地方裁判所です。
 特別裁判籍の義務履行地については、損害賠償請求権の場合、民法484条により原告の住所地となるので、事例では仙台地方裁判所となります。特別裁判籍の不法行為地については、侵害品の製造・販売地が千葉市なので、千葉地方裁判所となります。
 さらに、民訴法6条の2第1号により、東京地方裁判所にも管轄があります。
 よって、本事例の損害賠償請求権については、千葉地方裁判所、仙台地方裁判所、東京地方裁判所に管轄が生じると考えることができます。 

(2) X社の訴えは、差止請求権と損害賠償請求権とを1つの訴えで請求するいわゆる併合請求となるので(民訴法7条)、上記事例では、結論として千葉地方裁判所、仙台地方裁判所、東京地方裁判所のいずれに訴えることもできると考えられます。
 管轄裁判所が複数生じるときは、裁判所への出頭、証拠・証人の所在、代理人との打合せなどを考慮して、訴訟活動に最も便利な裁判所を選択します。 

(3) 仮に、上記事例が特許権侵害の事案であった場合は、民訴法6条により、東京地方裁判所の専属管轄となります。特許権、実用新案権、回路配置利用権又はプログラムの著作物についての著作者の権利に関する訴えは、民訴法6条により、東京地方裁判所又は大阪地方裁判所のいずれかの専属管轄とされています。 

4.ライセンス契約書における専属的合意管轄の規定の意義
 特許等のライセンス契約書に、例えば、福岡地方裁判所を専属管轄と定める規定があっても、ライセンサーがライセンシーに対し同契約に基づきライセンス料の支払を求めて訴えるときは、民訴法6条の「特許権等に関する訴え」に該当すると解されるので、当事者の合意にかかわらず、原則として、東京地方裁判所又は大阪地方裁判所のいずれかの専属管轄となります。ただし、専門技術的事項が問題とならない場合、例えば、特許の有効性、実施等については争いがなく、ライセンス契約の解釈が争われる場合や、単に経済的理由から支払わない場合などは、裁判所は、当事者が合意した裁判所(福岡地方裁判所)に移送することができます(民訴法20条の2第1項)。つまり、この場合、当事者による管轄の合意は、裁判所の移送の判断の中で考慮されることになります。
 さらに、特許等のライセンス契約書で、東京地方裁判所又は大阪地方裁判所を管轄と定めた場合は、合意と異なる裁判所に法定の専属管轄が生じるときでも、民訴法13条2項により、合意で定めた裁判所の方が優先することになります。
 以上から、特許等のライセンス契約書では、東京地方裁判所又は大阪地方裁判所を専属管轄とする合意は管轄を決する上で決定的な意味をもちますが、両裁判所以外を専属管轄とする合意は、原則としてあまり大きな意味をもたないということができます。なお、これは特許権、実用新案権など民訴法6条1項に規定の権利等にかかるライセンス契約書を前提としたものであり、意匠権、商標権など民訴法6条の2に規定の権利等にかかるライセンス契約書等では、当事者の合意によって任意に専属的な管轄を定めることができます。

以 上
(IP情報室) 

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